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第90回懇話会のお知らせ

2018年6月30日(土)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~18:00
明治初期のお雇いドイツ人科学教師
講師:小澤健志さん(科学史、(株)NAAリテイリング)

講演概要

 明治元年(1868年)春、明治天皇はいわゆる「五箇条の御誓文」を示し、これを新政府の基本方針とした。その第5条には「智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし」と書かれている。明治新政府は、富国強兵 政策及びこの基本方針に基づき西洋の科学、技術、医学、法律などの学問の受容を急速に行なった。この受容についての方法は大きく分けて三つあった。一つ目は教育機関を創設し、外国人教師などを雇って教授させる。二つ目は、日本人政府関係者や学生(生徒)を留学させ、帰国後、彼らに教育機関などで教授させる。三つ目は、全国民に対して教育を行うための教師を養成する師範学校を創設する。これら教育機関については、主なものでは東京大学前身校(開成学校に始まり、その後東京開成学校になるまでに5回の改名が行われる)、東京医学校、工部学校、東京農林学校、札幌農学校、師範学校、大阪舎密局の7校が挙げられる。

 東京開成学校は、江戸幕府により創設された開成所を引き継いだ教育機関であり、明治2年(1869 年)に開成学校として設置され、明治8年(1875年)に東京開成学校と改名され、明治10年(1877年)に東京大学が設立されるまでは、日本における西洋科学の中心的な受容機関であり、日本の近代化を促進させる人材を育成する役割を担っていた。

 東京医学校(現東京大学)は、明治7年(1874)に江戸幕府の医学所を引き継ぐものとして設立されたが、医学所ではオランダ学医学が教えられていたのに対して、明治政府はドイツ医学を採用した。工部学校(現東京大学)は、工部省が明治3年(1870年)に工業振興および産業奨励を行なう機関として創設した。これは学理と実地とを統一した先進的な制度を取り入れていたスイス連邦工科大学を模範とした。

 東京農林学校(現東京大学)は、明治19年(1886年)に農商務省が内務省の駒場農学校と農商務省の東京山林学校を合併させて設立した教育機関で、農業・林業振興の人材育成を行なった。

 札幌農学校(現北海道大学)は、開拓使札幌本庁が明治9年(1876年)に北海道の開拓を行う人材養成の教育機関として開校した。

 師範学校(現筑波大学)は、明治5年(1872年)文部省が江戸幕府の昌平坂学問所を引き継ぐ形で、初等・ 中等学校の教員養成を行う機関として創設した。

 大阪舎密局(現京都大学、大阪大学)は、大阪府が明治2年(1869年)5月に物理学や化学を教授する学校として開校した。

 これらの機関においては、外国人科学教師が雇われて教育が行われた。本講演の目的である自然科学の分野での講義科目から見た外国人教師に注目すると次のようになっている。東京大学前身校(アメリカ人、イギリス人、フランス人、ドイツ人)、東京医学校(ドイツ人 )、工部学校(イギリス人 )、東京農林学校(イギリス人 )、札幌農学校(アメリカ人 )、師範学校(アメリカ人 )、大阪舎密局(オランダ人、ドイツ人 )。以上の教育機関で外国人の科学教師を調べると、ドイツ人科学教師についての情報がほとんど無いことが分かり、私はドイツ人科学者の修学歴を中心とする足跡から調査を開始し、日本での教授活動内容などを一次資料に基づいて調査し、日本における近代化国家の形成過程における彼らの役割を明らかにしたいと考えた。本調査で取りあげたドイツ人科学教師は、次の7名である。G.ワグネル(大学南校、南校、東京開成学校)、E.クニッピング(大学南校、南校、第一大学区第一番中学、開成学校、東京開成学校)、C.シェンク(南校、第一大学区第一番中学、開成学校、東京開成学校)、H.リッター(開成学校、東京開成学校)、G.A.グレーフェン(南校、第一大学区第一番中学、開成学校、東京開成学校)、A.ウェストファル(東京開成学校)、V.ホルツ(大学南校独逸学伝習所)。他にローゼンスタンド、トゼロフスキー、ゼーガーという、デンマーク人、ドイツ人科学教師が3名いるが、詳細を調査することができなかった。

 本講演の構成は次の通りである。
 第一章 序章―幕末から明治初期における科学教育
 第二章 明治元年から明治10年の東京大学設立までのその前身校におけるドイツ人科学教師
 第三章から第九章まで7名のドイツ人科学教師の足跡
 第十章 総括的考察と今後の課題

 各章の概要については、まず第一章第一節では研究目的・意義を説明する。第二節では、明治初期においては自然科学で用いる分野の名称が統一されていない時であるため、聴講者に混乱を与えないようにするために本論文で使う用語を定義する。第三節では、明治初期に物理学、化学、数学が教授された政府創設の教育機関について紹介し、それらの機関の社会的役割について説明する。

 第二章第一節においては、日本の近代化における最も重要な人材養成機関であった東京大学の前身校に注目し、英語、フランス語、ドイツ語という3つの語学別にクラスが編成されていたことに基づき、それらの歴史的背景を説明する。第二節では英語クラス、フランス語クラス、ドイツ語クラスの生徒数の変遷について、そして第三節と第四節では、各言語クラスで教えていたお雇い外国人科学教師と彼らの教育の現状について説明する。

 第三章から第九章においては、本調査で明らかにしたドイツ人科学教師 G.ワグネル、E.クニッピング、C.シェンク、H.リッター、G.A.グレーフェン、A.ウェストファル、V.ホルツの来日前の履歴、修学歴、職歴、来日前後の足跡、日本での活動について説明する。

 第十章では、本調査で明らかになったことを説明する。主に明らかにしたことは、次の3点である。1点目は、明治維新後から明治10年(1877 年)の東京大学創設までに、その前身校(後の法理文学部)において、科学科目を教えたお雇いドイツ人9名と彼らの担当科目を明らかにし、この中で5名について、彼らのフルネーム、出身地、家族構成、生没年月日、離日後の足跡、職歴等の伝記的な事項を明らかにした。

 2点目は、東京大学前身校のドイツ人教師たちの科学科目の教授活動の状況を明らかにした。9名のドイツ人教師たちの修学歴についてまとめるとともに、明治8年7月に行なわれたドイツ語クラスの物理学の試験問題を精査し、ドイツ人教師たちは、英語クラス、フランス語クラスで使用されていた当時最もレベルの高いテキストと同等のレベルのテキストを使用し、英語クラス、フランス語クラスと遜色がないレベルの授業が行なわれていたことを明らかにした。

 3点目は、初期日独学術交流史の観点では、これまで科学教育に関する研究が空白であったが、それを明らかにした。また派生的に、英語クラスでは米国・ラトガース大学から多くの教師が派遣されたこと、同様に札幌農学校のように米国・マサチューセッツ農科大学から派遣されたこと、工部学校では英国・グラスゴー大学から派遣された、というような同じ大学出身者の学閥的な要因は、ドイツ人科学教師たちには皆無であったことを明らかにした。

講師プロフィール

小澤健志(おざわ たけし)
 1970年生まれ。1989年佐賀大学理工学部物理学科入学、1991年~1992年ミュンヘン工科大学物理学科留学、1995年佐賀大学理工学部物理学科卒業。現在(株)NAAリテイリング勤務。日本科学史学会・日本独学史学会等の会員。博士(学術)。

研究教育業績書
番号 題目 シリーズ・発表雑誌名、巻・号数、頁、発表年月 共著者名等
1.学位論文
1 明治初期お雇い独国人科学教師による教授活動 博士(学術)[日本大学]2015年7月
2.学術論文
1 ゾンマーフェルトの訪日と本多光太郎 金属, Vol.75,No.6, pp.58-59, 2005年6月 共著者:小澤健志, 勝木握
2 Arnold Sommerfelds Aufent- halt in Japan HISTORIA SCIENTIARUM, Vol.15, No.1, pp.44-65, 2005年7月【査読あり】 単著
3 Sommerfeldの来日と日本の物理学 日本物理学会誌, Vol.61, No.3, pp.191-192, 2006年3月 単著
4 量子物理学論文集(1930年)とその時代背景 日本物理学会誌, Vol.62, No.11, pp.867-868, 2007年11月 単著
5 On the Initial Reception of Quantum Mechanics in Japan, 1925-1928 HISTORIA SCIENTIARUM, Vol.19, No.1, pp.29-42, 2009年7月【査読あり】 単著
6 Hermann Ritter(1827-1874), ein Pionier der westlichen Naturwissenschaften in Japan HISTORIA SCIENTIARUM, Vol.19, No.3, pp.225-234, 2010年3月【査読あり】 単著
7 明治の初めに日本で活躍したドイツ人科学者たち 西日本日独協会年報 Jahresbericht Japanisch- Deutsche Gesellschaft Westjapan, 34号, pp.32-33, 2010年6月 単著
8 お雇い独逸人化学及び鉱物学教師C.シェンク 化学史研究, Vol.37, No.4, pp.183-187, 2010年12月【査読あり】 単著
9 東大理学部前身校のお雇いドイツ人科学教師たちの特徴と経歴 東京工業大学「火曜ゼミ通信」, 77号, p.3, 2011年1月 単著
10 お雇いドイツ人理化学教師G.ワグネルの生い立ちと修学歴について 化学史研究, Vol.38, No.1, pp.28-36, 2011年3月【査読あり】 単著
11 17世紀のドイツを観た長崎・平戸出身の日本人 西日本日独協会年報 Jahresbericht Japanisch- Deutsche Gesellschaft Westjapan, 35号, pp.4-7, 2011年3月 単著
12 明治初期のお雇い独逸人教師G.A.グレーフェンの足跡 科学史研究, Vol.50, No.259, pp.170-173, 2011年9月 単著
13 金澤藩鉱山教師E.デッケンの生涯について 地質学史懇話会会報, 7号, pp.3-7, 2011年11月 単著
14 東京開成学校お雇い独逸人数学教師アルフレット・ウェストファルの足跡 科学史研究, Vol.50, No.260, pp.224-228, 2011年12月【査読あり】 単著
15 Carl Schenk, the First Professor of Mineralogy in Japan International Commission on the History of Geological Science (INHIGEO), pp.157-159, 2012年7月 単著
16 お雇い独逸人化学及び鉱物学教師C.シェンクの後半生 化学史研究, No.39, No.4, pp.21-24, 2012年12月【査読あり】 単著
17 明治四年の佐賀藩医学校好生館のドイツ医学教育 佐賀大学地域学歴史文化研究センター研究紀要,7号, pp.39-50, 2013年3月【査読あり】 単著
18 佐賀藩医学校とドイツ医学 西日本日独協会年報 Jahresbericht Japanisch- Deutsche Gesellschaft Westjapan, 37号, pp.25-26, 2013年3月 単著
19 佐賀藩が所有していたオランダ語の医学書 佐賀大学地域学歴史文化研究センター研究紀要,8号, pp.15-29, 2014年3月【査読あり】 単著
20 日本におけるドイツ医学の広まり 西日本日独協会年報 Jahresbericht Japanisch- Deutsche Gesellschaft Westjapan, 38号, pp.42-43, 2014年3月 単著
21 佐賀藩が安政五年に購入したオランダ語の医学書についてv 日本医史学雑誌, 60巻,3号, pp.313-314, 2014年9月【査読あり】 単著
22 German science teachers in the early stages of the Meiji period in Japan Japanese Association for the History of Geosciences Newsletter, No.18, June, 2016 単著
23 安政五年の幕末佐賀藩購入書籍にみる西洋医学の受容 佐賀大学地域学歴史文化研究センター研究紀要,11号, pp.17-36, 2017年3月【査読あり】 単著
24 佐賀藩が所有していたオランダ語の科学書 佐賀医学史研究会報,103号,pp.4-6, 2017年7月
3.著書
1 お雇い独逸人科学教師 青史出版社 2015年8月 単著
2 化学史事典 株式会社化学同人, 2017年3月刊行 執筆担当部分:お雇いオランダ人薬学教師「O.Korchelt」「A.L.C.Geerts」、ドイツ人理化学教師「H.Ritter」および日本における薬学研究の先駆者「柴田承桂」「下山順一郎」「丹羽藤吉郎」「丹波敬三」の項目を単独で執筆 共著 編集委員長:大野誠 編集委員:新井和孝、他13名
3 理論物理学者アーノルド・ゾンマーフェルトの蔵書目録 青史出版社  2017年12月 単著
4.学会発表
1 ゾンマーフェルトの日本滞在について 日本科学技術史学会  於:東京大学, 2004年12月  
2 A.ゾンマーフェルトが、1928年に行なった来日講演と、それ聴講した学生たちの印象について 日本物理学会  於:東京理科大学, 2005年3月  
3 ゾンマーフェルトの来日と日本の物理学 日本物理学会  於:同志社大学, 2005年9月 招待企画講演
4 ゾンマーフェルトの来日講演の考察 日本物理学会  於:千葉大学, 2006年9月  
5 ゾンマーフェルトの一次資料について 日本科学技術史学会  於:東京大学, 2006年12月  
6 ゲッティンゲン大学に保管されているお雇いドイツ人教師G.ワグネルの資料 日本科学技術史学会  於:東京大学, 2008年7月  
7 ミュンヘン大学所蔵のA.ゾンマーフェルトの蔵書について 日本物理学会  於:岩手大学, 2008年9月
8 開成学校お雇い独逸人物理学教師ヘルマン・リッターの経歴について 日本物理学会  於:立教大学, 2009年3月  
9 温故知新としての科学史 ドイツ・ミュンヘン工科大学森永晴彦名誉教授主催「自由人のエネルギー勉強会」  於:東京・神田学士会館, 2009年4月  
10 ゲッティンゲン大学所蔵のお雇いドイツ人教師ワグネルとリッターに関する史料 化学史学会  於:明治大学, 2010年7月  
11 お雇いドイツ人数学教師A.ウェストファルについて 日本科学技術史学会  於:東京大学, 2010年7月  
12 東大理学部前身校のお雇いドイツ人科学教師たちの特徴と経歴 火曜ゼミ  於:東京工業大学, 2010年10月  
13 日本に科学を伝えたドイツ人たち-佐賀にゆかりのある人びと 日独交流150周年記念講演会  於:佐賀大学, 2011年1月  
14 明治初期のお雇いドイツ人鉱物学教師 C. シェンクと E. デッケンの経歴 地学史研究会  於:早稲田奉仕園セミナーハウス, 2011年3月  
15 金澤藩鉱山教師E.デッケンの生涯について 地質学史懇談会  於:東京・北とぴあ, 2011年6月  
16 Carl Schenk, the first professor of Mineralogy in Japan International Commission on the History of Geological Science (INHIGEO)  於:豊橋市, 2011年8月  
17 好生館病院御雇いドイツ人医師デーニッツの経歴 佐賀医学史研究会  於:佐賀市, 2012年4月  
18 佐賀藩医学校好生館のドイツ語の受容と教育 日本独学史学会  於:(財)富士Calm人材開発センター富士研修所, 2012年7月  
19 東京大学設立以前のお雇いドイツ人教師たち 日本独学史学会  於:日本医科大学, 2012年12月  
20 好生館病院とドイツ医学 佐賀医学史研究会  於:佐賀市, 2012年12月  
21 佐賀藩所有のオランダ語の医学書について 佐賀医学史研究会  於:佐賀市, 2013年4月
22 幕末の佐賀藩が所有していたオランダ語の医学書 日本医史学会総会  於:日本歯科大学, 2013年5月  
23 『洋書目録』と佐賀藩が安政5年に購入したオランダ語の医学書 佐賀医学史研究会  於:佐賀市, 2013年12月  
24 佐賀藩が安政5年に購入したオランダ語の医学書について 六史学会合同12月例会  於:順天堂大学, 2013年12月  
25 日本におけるドイツ医学の広まり 西日本日独協会  於:福岡・KKR博多, 2014年2月  
26 なぜ数学は理学部に所属しているのか? ドイツ・ミュンヘン工科大学森永晴彦名誉教授主催「自由人のエネルギー勉強会」  於:東京・神田学士会館, 2015年4月  
27 明治初期に科学を伝えたドイツ人たち-佐賀にゆかりのある科学者たち- 佐賀大学文化教育学部国際文化課程主催, 「異文化交流講演会」  於:佐賀大学, 2015年11月  

日時/会場

日時:2018年6月30日(木)14:00~18:00
会場茅ヶ崎市勤労市民会館(253-0044 茅ヶ崎市新栄町13-32)電話:0467-88-1331
参加費:1,000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210 email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/

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