2011年私のおすすめ3作品

綾部 誠/井上 肇/新関 寧/丸山弘志『市民の力で東北復興』(ほんの木、2012年1月15日)

綾部 誠/井上 肇/新関 寧/丸山弘志『市民の力で東北復興』

本書は山形県米沢市を拠点する「ボランティア山形」の東日本大震災支援活動の記録である。大震災・原発事故にいかに対処するかという災害ボランティアの組織・運営の最前線が記録されている。

帯に記された文章をあげておこう。「福島から原発事故による避難者を迎え入れ、立ち上がった山形県米沢市民と、全国から支援に結集した心ある仲間たち。宮城、岩手、福島各県の津波被災地にも物質とボランティアを送り続け、その運営体制と実践力は高く評価された。ここには新しい「市民の力」がある。新しい時代への災害ボランティ論。ボランティ山形は1995年1月の阪神淡路大震災時に、米沢生活協同組合(現・生活クラブやまがた生活協同組合)の緊急支援策として、広く山形県民に呼びかけて組織した。特徴的なのは災害時になると活動を再開するところや、活動メンバーはその都度募集することもある。他のボランティア組織に入って活動することもある。東日本大震災救援活動では従来の物質供給や人的支援に加えて、各ボランティア団体や大学、行政などと連携をして、避難者支援や政策提言などを行う中間支援組織的な役割が大きな柱になっている」。

2012年2月23日本書の出版記念フォーラムが東京の竹橋であり妻と参加し、じっくり活動の様子を聞き大きな感動を受けた。災害時において地域と地域がつながるとはどういうことなのかと具体的に示し、その献身的な姿勢にただただ脱帽するのみである。米沢市は私たち夫婦の故郷でもあるので、ボランティア山形の活動の様子はよく見える。感謝したい。


佐々木 力『ガロワ正伝―革命家にして数学者』(ちくま学芸文庫、2011年7月10日)

佐々木 力『ガロワ正伝―革命家にして数学者』

日本人の科学史(数学史)家による本格的はガロワ伝である、裏表紙に次のように記されている。「代数方程式に関するガロワ理論はもっとも美しい数学のひとつと言われる。しかし、その理論が解読され、教育制度に根づくには数学者たち多大な努力が必要であった。ガロワはまた急進的共和主義革命家としても知られた。天才数学者にして革命家――本書はその実相を描き、さらに、これまで最大の謎とされてきた決闘死の真相に迫る。決闘前夜の友人宛書信をはじめ自筆原稿を丁寧に読み、真実一路の夭折の生をまっとうした青年の稀有の生涯を再構成する。厳密な歴史学的手法を駆使し、既成の創作的伝記をトータルに超え出ようとする正伝。著者は本書の内容を基に、ガロワ生誕200年の2011年、フランス学士院科学アカデミーから講演を招聘された」。

たしかにわれら1960年代世代の自然科学系の学徒にとっては「若干20歳で決闘死した数学者にして革命家」のガロワは魅力的な人物だ。そもそも私がガロワの存在を知ったのは、L・インフェルト『ガロワの生涯-神々の愛でし人』 (市井三郎訳、日本評論社、1969年)からであった。本書は非常に面白い読み物で夢中になって読んだ記憶がある。日本語の文章(訳文)も見事で大きな影響を受けた。しかし、著者のインフェルトも認めているように、多少のフィクションを織り交ぜながら読み物としている。そうであっても読者にはガロワの全体像を知るには有益だった。これに対してかねてよりそのフィクション(創作的伝記)に批判的な問題提起をしてきた日本の数学史家がガロワの直筆の論文、周辺の歴史的事情のフランス語原点を読み解き、正しい数学史書として論じたものだ。インフェルトの伝記に比較すると面白さに欠けるが真実に近いガロワ伝が出た意味が大きい。


山本義隆『福島の原発事故をめぐって-いくつか学び考えたこと-』(みすず書房、2011年8月25日)

山本義隆『福島の原発事故をめぐって-いくつか学び考えたこと-』

本書に関して私は「週刊読書人」(2011年10月7日)に「平易な言葉で語るべきことを語り尽くした若者へのメッセージ」という見出しをつけて論評したことがあったので、あまり繰り返すことを禁欲するが、やはり、今でも本書は長い間、物理学・物理学史・物理教育に専念してきた著者が在野の学者・教育者として真摯にわかりやすい言葉で述べた本質的・根源的な著作だと思っている。

何よりも本書の特徴は現在進行形で複雑多義な論議がなされている中で、その気になればだれにでも容易に入手できる資料(書物)を読み解き分析し、著者の原発問題に関する基本的な態度と理念を正直に証明したことにある。繰り返し読み継がれる書物だと思う。