書評:エリザべ―ト・ネム=リブ/ジェラール・チュイリエ『太陽活動と気候変動―フランス天文学黎明期からの成果について』(北井礼三郎訳、恒星社厚生閣、2019年4月25日)

 今年5月中頃、北国の北海道各地が、これまで体験したことのない季節はずれの記録的な猛暑に見舞われた。これが持続するとなると、この夏は一体、どうなるのか。多数の死者が出る可能性は十分に考えられる。そうとうに深刻な事態であることは間違いない。また来年夏に東京オリンピックを開催するなどは、諸般の事情(原発事故の補償・救済・復興等)を考慮すると、信じがたい国家の暴挙ともいえる。

 この数十年、地球の温暖化現象が顕在化し、世界中で深刻な被害が発生し、国際的な政治問題になっていることは周知の事実である。その温暖化現象の主要な要因は、西洋の産業革命以来の急速な工業化による人為的な温暖化物質(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、CFC、人為エアロゾル等)の排出にあるとされ、科学的気象学的に確認されている。

 しかし、これらの科学的事実は認めるにしても、いや、そればかりではないぞ、というのが本書の核心的な内容である。その核心的な内容とは、温暖化現象などの気候変動は、生命の源泉である太陽活動の変動と密接に関係し、太陽と地球の複雑な物理的メカニズムにあるのだと説く。

 こうして、二人の著者(フランスの太陽物理学者と地球気象学者)は、太陽が宇宙空間に放射する光量の内、地球が受け取る光量(太陽定数)と気候変動のあり様を、地質年代にわたる壮大な変遷を明かにしたのである。それによると、中世代は高温状態、新生代の更新世は低温化傾向、そして完新世は温暖化傾向を呈したという。

 しかし、こんなことを言われても実感と体感が湧かないので、ぐっと我が時代の近未来の予測を考えと、太陽活動の変動が原因とする予測では、21世紀の気温変化は2040年までは上昇し、その後は徐々に下降するとされている(本書、184頁)。

 けれども、人間の環境にどんな事態が起こるかは予想もつかないが、ともかく太陽活動の変動の研究(差動運動、黒点、太陽直径、太陽振動等)が、決定的に重要だと主張する。だからと言っても、手の打ちようがないのも事実だ。というのも、太陽活動は実に気まぐれだからである。

 こうなったら「人間原理」を信じて生きていくしかない。人間原理とは簡単に言えば、地球環境は人間が生存可能な状態を保持する、という考え方である。気まぐれな太陽が最悪の気分に陥ると、地球上の諸生物の生存はひとたまりない。

 こうして近年の地球温暖化現象は、人間が大騒ぎをしている人為的な温暖化物質の排出のみが原因なのではなく、太陽活動の変動のあり様に大きく起因していると主張するのである。しかし、その対処法と解決法が見つからないとすれば、宇宙神を想定し人間原理を永遠に保持してください、と天を仰ぐしかない。突き詰めて考えれば、実に恐ろしい事態だ。まさに幸運を祈るしかない、のかも知れない。

 なお、本書の前半はフランスにおける天文学史研究の歴史と現状が述べられ有意義であることを記しておきたい。