書評:小松美彦『人は死んではならない』(春秋社、2500円) 『週刊朝日』2003年1月24号掲載

 「臓器移植法」は巧妙に仕組まれ欺瞞に満ちた「死の自己決定権」の論理で成立したと批判する著者が、永井明(文筆業)、小俣和一郎(精神科医)、宮崎哲弥(評論家)、市野川容孝(社会学者)、笠井潔(作家・評論家)、福島泰樹(僧侶・歌人)、最首悟(環境哲学者)、土井健司(聖職者)の各氏と真摯に語り合った対論集。

 死は本来、個人的な現象ではなく、他者との関係で成り立つ「共鳴する死」であると主張する著者に、相手がそれぞれの生活や思想の基盤から、安楽死、尊厳死、自殺、医療倫理、優生学、宗教、近代の文化思想などを語り合う。特に人間の生死に日常的に直面する福島、土井両氏と重症障害の娘をもつ最首氏との対論では死に関わる人々の心情が重厚に表出される。21世紀の今、「共鳴する死」の復権を希求する著者の思いがよく伝わってくる。