書評:小松美彦『脳死・臓器移植の本当の話』PHP研究所

 最後の一人になっても徹底的な批判を浴びせると公言する著者が、高密度な論理を縦横無尽に駆使し渾身の力で書き下ろした「脳死・臓器移植問題」の決定版である。

 「脳死者の意識」を意識・感受する想像力を持てと、すべての人々に呼びかける。脳死者はラザロ徴候(自発的な運動)を呈し、臓器摘出の際は血圧上昇や頻脈などの人間的な動きをともなうが、これを封じるために麻酔を施す。このように「痛み」を感じている脳死者を、そもそも人の死(の基準)とは認められず、その行為は殺人であり移植などはもってのほかと、著者は力説する。内外の膨大な研究報告書をひもとき、脳がすべての身体を有機的に統合するという俗説=神話を解体するとともに、約二十年も生き続ける脳死者の実例を挙げる。さらに、臓器提供を拒否し社会復帰した実例もあげている。だから「死者」ではなく、「患者」なのだ。

 圧巻なのは、日本で最初の札幌医科大学の和田心臓移植(一九六八年)と臓器移植法成立後、初めての高知赤十字病院(一九九九年)の心臓・肝臓・腎臓の移植という、二つの生々しい移植現場の実態を、現地に赴き徹底的に再検証し、比較対照していることだ。はじめに脳死・臓器移植ありきの捏造まがいの医療現場の実態を白日のもとにさらす。現在、議論されている臓器移植法の改定では、さらに「進歩」して、臓器提供の意思に無関係に一律に死(の基準)となりかねない。自分の「目で見る」「心で感じる」「頭で考える」ことを力説しつつ、それ自体がマインドコントロールされていないかを問う。