私のおすすめ3作品 市民科学研究室有志アーカイブ 2011年2月21日
著者のヨーゼフ・T・デヴレーゼとヒード・ファンデン・ベルへは、ベルギーとオランダの大学で教鞭をとる。前者は理論物理学、後者は数値解析を講じる。本書は日本おろか国外でもほとんど知られていないオランダの科学者シモン・ステヴィン(1548-1620)の本格的な評伝です。もちろん日本では初公開です。全460頁もある大著。
内容を一読するとビックリ仰天。シモン・ステヴィンはガリレオに先んじる科学革命の先駆者だという。なぜ知られていないか。ステヴィンは当時の学問の共通語のラテン語を「意識的」に使用せず、母国語のオランダ語を「意識的」に使用したことにある。ここに革命性があると力説しています。
私は苦労して何度か通読したが、実に面白い。最後に監修者の山本義隆さんが「シモン・ステヴィンをめぐって―数学的自然科学の誕生―」(全75頁)を解説しています。オランダまで留学して翻訳した中沢聡さんには脱帽です。高校・大学の物理教師にはぜひ読んでもらいたい革命的な力作だと思います。
数学史家の佐々木力さんは「デカルトの数学思想」を主要なテーマとしていますが、その他、多数の重厚な東西の科学史書を刊行してきました。その東西の科学史の集大成としての通史『数学史』(全919頁)を刊行しました。
これも読むのに苦労するが学問の営みとしての「数学とは何か」を壮大な歴史空間から詳述しています。参考文献が詳しく明示しているのでとても参考になる。日本の数学史家の到達点でもいえるかも知れない。
昨年一年、真剣に読んだ貴重な一冊です。高額なのが難点です。
柄谷行人さんは故江藤淳につぐ文芸評論家として思想界に論陣を張ってきました。私の専門領域からかなり離れていてしかも肌合いが異なるという偏見を持っていました。しかし、読み始めるとこれまたシンドイが面白い読書となり、やめられませんでした。
われわれの世代は一向に読みきれない内外の思想書の原典を読むことにこだわるが、柄谷さんはその内外の古典とされる原典を自分のものとして、本当に自分の言葉で、縦横無尽に現代の世界の構造の見方を述べる明晰性と簡潔性には驚きました。具体的に現代を読み取る思想を獲得するとはどういうことなのだろうかと思いました。