書評:常石敬一『化学兵器犯罪』(講談社現代新書) 『週刊朝日』2004年3月5日号 掲載

 二〇〇三年、日本と中国で旧日本軍の毒ガスによる汚染が表面化した。茨城県神栖町の井戸水から毒ガスの「くしゃみ剤」を原因とするヒ素が検出され、中国国龍省チチハル市の工事現場で「びらん剤」により四十三人(一人死亡)が被害を受けた。前年には、神奈川県寒川の工事現場で「びらん剤と催眠剤」による土壌汚染が判明し被害者も出た。日本政府は公式に旧日本軍の毒ガスと認め、救済と補償に乗り出したが、これらは氷山の一角である。中国における旧日本軍の生物細菌戦「七三一部隊」研究の第一人者である著者は、第一次・第二次世界大戦中の内外の毒ガス研究に取り組み、その全貌を明らかにする。化学兵器開発に関わった科学者の肉声を再現することの大切さや、核保有大国が化学兵器を廃棄するのは欺瞞であると説く。