書評:梅林宏道『在日米軍』(岩波新書、2002年)

 最近、防衛庁が情報公開法に基づく文書開示請求者の請求理由と思想傾向を示すリストを作成していることが暴露された。防衛庁の役人が文書開示請求者を密かに監視下におく行為は言語道断である。これに対して本書の著者梅林氏はすぐさま反論に出た。「未熟な人権意識 改革せよ」(『朝日新聞』2002年6月1日朝刊)である。梅林氏は日本や米国の情報公開法に基づく文書開示請求を頻繁に利用する市民活動家である。

 1972年、米軍相模原補給廠(神奈川県)で大規模な戦闘車阻止闘争が起こった。その苦難に満ちた闘争ドキュメントは『戦車の前に座り込め』(「ただの市民が戦車を止める会」編、さがみ新聞労働組合発行、1980年)で知れる。梅林氏はその中心的活動家である。私もその戦車阻止闘争の渦中にいたのでよく理解できるが、梅林氏の闘争はいかなる政治党派にも属さず、ただの市民が「ヴェトナムに戦車を送るな」の非戦の闘争である。

 それ以来、地域住民とともに日韓連帯闘争、三里塚闘争など、実践的民衆運動を展開する。現在はNPO法人ピースデポの代表、PCDS(太平洋軍備撤廃運動)の国際的コーディネーターである。国際的な市民運動のネットワークを組織し、世界各国の核兵器・核実験反対運動、軍縮運動において大きな役割を果たしている。

 こうした多忙きわまる日々の実践的運動の合間をみて、梅林氏は衝撃的な本を書いた。『情報公開法でとらえた在日米軍』(高文研、1972年),『情報公開法でとらえた沖縄の米軍』(高文研、1974年)である。何が衝撃的な本か。日本全土の在日米軍基地の全貌を詳細に明らかにしたこと、さらに、この在日米軍基地の全貌は、梅林氏がすべて米国の情報公開法によりペンタゴン(国防総省)から入手した厖大な資料を読み込み、悪銭苦闘の末に作成したことである。

 先にみた防衛庁役人の情報公開法の意識とは逆転している。この二冊の本は防衛庁の書籍売場にも高く積み上げられた。まさに梅林氏の言う「知は力」である。さて本書『在日米軍』でも上記本で示した大量の資料を織り込み、米軍による地球的規模の軍事戦略を詳述する。いまや敵なし軍事戦争国家となったアメリカは宇宙戦争まで展開する。地上の目に見える者はすべて殺せるIT科学戦争である。湾岸戦争、アフガン爆撃でそれを実証した。「在日米軍」は日本防衛のために存在するのではない。世界中に張り巡らされた米軍の世界戦略の重要な基地として存在するのだ。しかも、日本政府は思いやり予算をたっぷり付けてくれる。米国側からすると、在日米軍は「感謝にたえない」重要な世界戦略の拠点なのである。

 最後に梅林氏は、現実的に可能な非軍事の安全保障を提言する。ひとつは「東北アジア非核地帯」の構想である。日本、韓国、北朝鮮、モンゴルの非核保有国が非核国地帯を構成し、それを米国、ロシア、中国の核保有国が支持する構想である。もうひとつは、日本の「専守防衛政策」を日本国内で行動規範に高め、その行動規範を国際化することである。これが実現すれば在日米軍の大幅な削減が現実的に可能だと熱く語る。長年、国際的な平和団体と連帯し反米軍、反核兵器、反核実験、軍縮運動に努力している活動家梅林氏の非軍事の安全保障の具体的な提言はきわめて重い。日本の人民は梅林氏の2提言を支持し、それを国際的な運動に広げて行くべきなのである。