書評:山田大隆『天才科学者の不思議なひらめき』(PHP研究所)『週刊朝日』2004年10月29日号 掲載

 世の中にはほんとうに天才がいるらしい。六桁×六桁の掛け算を瞬時にやってのけたり、いちどある曲目の演奏を聴いただけで、それをいともかんたんに再現し演奏してみせる少年少女たちがいるという。人間の仕業とは思えない。しかし、本書に登場する歴史上に名を残した十二名の天才科学者は、このような「天才」とはすこしばかり趣きがことなる。アルキメデス(数学・物理学者)、グッドイヤー(技術者)、ジェンナー(医学者)、レントゲン(物理学者)、ベネディクトゥス(化学者)、パスツール(化学・医学者)、ノーベル(技術者)、湯川秀樹(物理学者)、ケクレ(化学者)、ファーブル(昆虫学者)、ワット(技術者)、ニュートン(物理学者)という科学者たちである。

 これらの人物に共通しているのは、あるものごと(事象)に目をつけるや、明確な目的意識をもち徹底的に意識を集中し、余人には想像もできない努力をしたすえに、ある「不思議なひらめき」を獲得していることである。偶然の事実を必然の事実とし、それを一般化・法則化・普遍化し、科学を想像する。「偶然は、よく準備のできた人には必然としてとどまる」(パスツール)はそれを端的に表現している。著者は、高校生・大学生の若者を相手に科学教育の実践にかかわるかたわら、三十年以上も教育に役立つ科学史を書くため一貫して科学史研究に専念してきた。天才科学者が生きた時代背景を踏まえつつ、かれらの人生観・社会観の功罪を縦横に織り交ぜ、偉大な業績の誕生の瞬間を手短にずばりと描き出している。その筆さばきはみごというほかない。