第78回懇話会(終了しました)

2016年05月21日(土)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~18:00
講師:林 衛さん(富山大学人間発達科学部)
「東日本大震災・津波被災から何をみいだし,学べばよいのか―大川小学校の事例を中心に―」

講演概要

 自然災害には必ず「人災的側面」がある。自然の特性がわかっていながら,それに反した社会を築いていると,自然の法則どおりに災害が招かれるのである。明治の濃尾地震,大正関東地震のころから,この構造的現象の存在への言及がある。「天災は忘れたころにやってくる」(寺田寅彦)のは,自然災害をもたらす自然現象の頻度が小さいからではなく,知識人らがこの人災的側面から目をそむけ,未曾有だ前代未聞だとして,災害の本質を忘れようと努めるからなのである。

 学制発布以来の最悪の被害をもたらした石巻市立大川小学校の津波被災では,学校にいた大川小児童74名,同教員10名,迎えにきていた大川中生徒3名,人数が把握できていない大川地区住人が犠牲となった。現場生存者は児童4名,教員1名であるが,教頭,教務主任,安全主任の少なくとも3名の教員,高学年男子,迎えにきた保護者らの何人もが,すぐ裏の山への避難を提案していた。

 昭和三陸大津波の直後に北上川付け替えが完了し,食糧増産を目的とする国策のもと,沖積平野の土地利用,水田改良が進み,いわば「稔り豊かな危険地帯」が形成されていた。石巻市のハザードマップは,大津波が河口から3.5kmも遡上し,大川小学校まで約500mに迫る想定を示していた。その想定のもととなるのはマグニチュード8クラスの地震であり,2分半もの強い揺れが続くそれ以上の地震(マグニチュード9と確定)では大川小浸水の危険性は,想定のやや外にある,想定から想定可能なものであったのだ。

 大川小事故検証委員会は,学校事故検証を文科省・宮城県教委が指導・監視したため,遺族が集めた事実・論点を取りこぼし失敗に終わった。未曾有主義,前代未聞主義に陥らずに,災害を記録し伝承する方法と意義について,参加者で議論したい。

講師プロフィール

林 衛(はやし まもる)

 高校卒業後就職,一人の地方公務員として,反公務員キャンペーン,国鉄分割民営化に疑問を抱き,なんとかしたいと大学進学。地球の歴史を研究したあと,岩波書店「科学」編集者となった1年目に阪神・淡路大震災に直面。世界で最も進んでいた関西地方の活断層研究が中学校理科教科書に紹介されるほどであったにもかかわらず,災害軽減に役立たなかった現実に直面,科学者の科学離れ問題に取り組む結果となる。シンクタンク勤務,フリーランス,NPO起業などを経て,富山大学に拾われる。批判的思考力や科学リテラシーがあっても,抑制され生かされない問題の構造解明と解決の問題を探究中。

関連資料

日時/会場

日時:2016年05月21日(土)14:00~18:00
会場茅ヶ崎市勤労市民会館(〒253-0044 茅ヶ崎市新栄町13-32)
電話 0467-88-1331 FAX 0467-88-2922  http://www.chigasaki-kinro.jp/
参加費:1000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210 email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/

資料

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