第85回懇話会(終了しました)

2017年8月6日(日)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~18:00
閉じて開く「なみえ復興大学」
講師:原田 洋二さん(なみえ復興大学学長、海拓舎社主)

講演趣旨

 私は6年前のあの日、浪江町にはいませんでした。浪江に生まれながら、浪江のあらゆる営みが破壊された時に浪江にいなかったことは、浪江で被災した人々の地震・津波・原発という人類史上、未曽有の三重苦を前にして、ただただ沈黙するしかありませんでした。私は浪江で被災したかったのです。これが私の最大の負い目となり、同時にこの思いが復興活動の最大の動機となったことは、偽りのない事実です。

 実は、この浪江との物心的距離感が私の復興活動によい結果をもたらすことになりました。当時、浪江町復興計画策定委員となって行政や浪江町民と話をするにつけ、何か違和感のような宙ぶらりんの思いを解消できないまま討論の場についていました。これは、委員会が解散されるまでの2年間続きました。それでも、浪江への思慕の念は日増しに強まるばかりでした。そして、ある意味で屈折したこの思いは、私の中で浪江町はどんどん美化・純化の一途をたどっていきました。

 なみえ復興大学は、「眼前の復興=被災者の生活の復興」のためには無力でした。これは大いに反省すべきことです。本大学がめざす文化の復興など、被災者の皆さんの生活の復興を前にして、文化の復興も何もあったものではない。また当時、町が出した大枠の復興プランの中にさえ「文化」の文字はありませんでした。当然です。被災者の皆さん・自治体は、浪江町民であるがためにそこで暮らす人として、生活の復興が最優先でなければならないことは歴然です。

 しかし、私は浪江出身でありながら浪江町民ではなかったために、この生活の復興を最大の目標に掲げることは避けられたのです。そして、純化・美化して浪江を見ることができたのです。と言いますか、それしかできなかったと言ったほうが本音でもあります。

 少なくとも私は、初めて聞く、単位の意味さえ知らない数値による放射線が風土を、そしてその数値をエビデンスと称して人心を弄ぶように切り刻まれ続ける浪江町を見ることはありませんでした。リアリティがないと言われればその通りですが、突然湧いた科学的根拠と言われる数値に何のリアリティも感じられず、であれば浪江で生まれ育ち、五感を育んでくれたそのセンスを信じるしかないという、ほとんど直感として「なみえ復興大学」は生まれました。

 これは、文化の復興を主な活動としています。今回の発表では、6年間の活動を通して得た、あるいは感じたことの中から、特に「専門家と素人」、「吉増剛造」、「大木淳夫作詞『土の歌』合唱団創設」、「浪江町復興DNAに学ぶ地域文化の再評価」などについて再考し、今後の活動に生かしたいと思います。

講師プロフィール

原田 洋二(はらだ・ようじ)
 1954(昭和29)年 福島県浪江町生まれ。東洋大学文学部卒業後、東京と浪江でアルバイトをしながら国内を徒歩鈍行で国内旅行を続ける。1984年30歳で定職に就き、写真関係の企画・制作に従事。1991年に退社後、フリーランスの執筆・撮影・編集を経て、1995年イーハトーブ出版株式会社の立ち上げに参画。1998年に株式会社海拓舎を設立。出版・デザインの二事業体制できたが、2011年の東日本大震災で出版部門を休業、翌年より2年間、浪江町復興計画策定委員を務める。この経験をもとに文化の復興に特化した「なみえ復興大学準備室」を立ち上げ、各種の復興支援活動に入る。2014年に原発性脳腫瘍り患後、浪江町の文化復興活動に完全にシフトして現在に至る。

日時/会場

日時:2017年8月6日(日)14:00~18:00
会場茅ヶ崎市勤労市民会館(〒253-0044 茅ヶ崎市新栄町13-32)
電話 0467-88-1331 FAX 0467-88-2922 http://www.chigasaki-kinro.jp/
参加費:1,000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210 email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/

資料

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