2018年9月23日(日)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~18:00
伝統医学国際標準化の最前線―漢方、鍼灸の標準化は誰のためのものか?
講師:東郷俊宏さん(医学史・未来工学研究所 特別研究員)
日本で私達が「漢方」、「鍼灸」と呼んでいる医学は、国際的には東洋医学(Oriental Medicine)ないし、伝統医学(Traditional Medicine)と呼ばれ、東アジアだけではなく、欧米や東南アジアを含めた広い地域で実践されています。特に欧米では1972年のニクソン訪中時に鍼麻酔効果が大きく宣伝されて以降、多くの人が中国で鍼を学び、帰国後鍼灸を広めていきました。
21世紀に入ると、伝統医学の国際標準化がWHO(世界保健機関)やISO(国際標準化機構)等の国際機関で本格的に議論されるようになります。これは現代医学の不足を補う新しい医学として相補代替医療が見直されており、これまで科学的な根拠に乏しいとされてきた東洋医学についても科学的な議論の基礎を作るために標準化が要請されている、という世界的な状況を背景としていますが、一方でこの標準化の動きは、伝統医学を知的財産も含めた「輸出産業」として捉えた「国際ビジネス戦争」としての側面を持っています。ISOで中国が自国の伝統医学(中医学:Traditional Chinese Medicine)の標準化を目的とした専門委員会(Technical Committee)の設置をISOに申請したのは2009年。これに前後して韓国はUNESCOに『東医宝鑑』を、中国は『黄帝内経』、中医鍼灸(Chinese Acupuncture)を世界の記憶(World Memory)に登録し、世界遺産登録レースともいえる熾烈な争いを演じました。
日本における漢方も、中国の中医学も韓国の韓医学も、近代に入り、西洋医学が流入すると中絶の危機を迎えます。いちはやく近代化を推進し、西洋医学を主体とした医療体制を確立した日本では、戦後も西洋医学優位の医療制度を取りましたが、中国、韓国は日本とは異なり、国策として伝統医学を保護することとし、伝統医学に従事する医療者(中医師・韓医師)は西洋医学の医師と同列の地位にあります。制度が異なれば、教育システムや業務として行える範囲も異なります。
このような状況下で、伝統医学の国際標準化とはどのような意味を持つのか。演者は2004年以降、WHO(西太平洋地域事務局を含む)とISOにおける国際標準化の会議に日本の鍼灸領域の代表として出席し、2014年からは3年にわたり、日本の東洋医学関連学会、団体で構成される日本東洋医学サミット会議の事務総長を務めてきました。その経験についてお話ししていきたいと思います。
東郷俊宏(とうごう としひろ)
1966年 神奈川県生。1991年 東京大学文学部 中国語・中国文学卒業。1996年 明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学)鍼灸学部卒業、98年同大学院 修士課程修了。1998年より京都大学人文科学研究所科学史研究室 助手。2004年鈴鹿医療科学大学鍼灸学部助教授。2009年 東京有明医療大学保健医療学部 准教授、2016年同教授。2012年 順天堂大学大学院医学研究科博士後期課程修了Ph.D(医学)。2014-2017年 日本東洋医学サミット会議事務総長。
学会:日本科学史学会、日本医史学学会、全日本鍼灸学会、日本東洋医学会
日時:2018年9月23日(日)14:00~18:00
会場:茅ヶ崎市勤労市民会館(253-0044 茅ヶ崎市新栄町13-32)電話:0467-88-1331
参加費:1,000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210 email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/