2019年3月21日(木)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~18:00
かわ道楽:文科系学生の道楽としての自然保護
講師:堂前雅史さん(動物行動学、科学技術社会論、和光大学教授)
私が勤めている和光大学は町田市と川崎市の境界にある文科系大学で、農地と緑地が住宅地と混在している地域である。和光大学・かわ道楽は、2002年に和光大学の学生を中心に結成された自然保護グループであり、教員は1メンバーとして活動に参加し、指導者の形で運営に関わることはできるだけ避けている。主たる活動地域は川崎市麻生区岡上(おかがみ)を中心とした鶴見川流域であるが、学生が地域社会や流域市民と深く交流している点が特徴的である。自然保護という、住宅地では必ずしも歓迎されるとは限らない活動が地元地域と学生の友好的関係を結ぶ契機になっている要因は、子どもたちや地域の人々との交流を積極的に行うのみならず、それを自分たち自身で楽しんでいる彼らの態度にあるように見える。このことは自然保護活動にありがちな、野生動植物に対して特権的な価値づけをする感覚が希薄な文科系学生ならでわの現象なのではないかと思っている。
また創立以来、鶴見川流域ネットワーキング、鶴見川源流ネットワークに加盟して、源流から河口までの多様な市民活動と連携しているため、活動範囲は鶴見川流域全体に及んでいる。こうした活動の広さは、単に野生動植物への関心だけでなく、多様な市民との交流を楽しむ感覚から来ているとも思われる。同時に保全団体の市民や地元住民も、彼らを一人前の市民として扱っていることも重要な要因かも知れない。現在では、鶴見川流域の大きなイベントでは和光大学・かわ道楽の学生が運営スタッフとして参加していることも珍しくない。町内会やNPO等の活動にあって、彼らの参加は重要なものとなりつつある。
また和光大学の自由な気風が、自発的な活動を行いながら運営していく意欲と誇りを彼らにもたらし、16年間も活動が続いているのかも知れない。毎年メンバーが出入りする学生集団でありながら、これほど長期に続く自然保護団体になろうとは思いもしなかった。
多くの市民から「守るべき自然」とは思われづらい都市河川流域の市街地の自然環境であるが、そうしたことにこだわらずに屈託なく楽しむ彼らの活動によって、絶滅危惧種魚の発見やアユの確認など、都市部の生物多様性の豊かさの再発見がなされたこともまた興味深い。こうしたことは、机上の自然科学知識よりも行動が先行する彼らの活動姿勢の表れのように思う。
こうした事例を前に私は戸惑いつつも、lay personによる科学、都市部の自然環境との付き合い方、地域社会と大学、市民教育、学生自治等々について想いを馳せるのだが、自分自身が当事者だけになかなか考えがまとまらない。皆さんと一緒に考察できれば幸いである。
堂前 雅史(どうまえ まさし)
1959年生まれ。2才の時から神奈川県で育つ。東京大学教養学部基礎科学科卒業、同大学院理学系研究科修了、東京大学教養学部助手を経て、現在和光大学現代人間学部身体環境共生学科教授。専攻:動物行動学、科学技術社会論。2002年から学生と共に鶴見川流域の環境保全グループ「和光大学・かわ道楽」を結成。以来、16年間、学生に引っ張られて自然保護活動を行ってきた。関連する著作物は以下。
日時:2019年3月21日(木、春分の日)14:00~18:00
会場:茅ヶ崎市勤労市民会館(253-0044 茅ヶ崎市新栄町13-32)電話:0467-88-1331
参加費:1,000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210 email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/