第102回懇話会のお知らせ(終了しました)

2021年3月27日(土)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~17:00
障害福祉の仕事をとおして考えていること
講師:本谷 守さん(介護・社会福祉士、元 社会福祉法人職員)

はじめに

 「湘南科学史懇話会」猪野代表から「懇話会」で「障害福祉」をテーマにお話しできないかと言われました。1984年から2019年まで障害福祉の現場で仕事をしてきましたが、身体を動かすばかりで学問的に叙述できないし、講演を聴く側でしかないと思っていました。

 退職後、35年間の書類の片付けをしました。その中で、今までの仕事で関わったいくつかをお伝えすることから、「障害福祉の広がり」を受け止めていただき、豊かな生活作りの一助になればよいと思い、恥ずかしながらお話することにしました。

講演概要

1 障害者施設とは

 20代で会社を辞めた後、実家近くに1年前にできた身体障害者療護施設が男性職員を募集しているとのことで申し込みをしました。就職初日、先輩職員の手ほどきで、車椅子の操作、食事、排泄、入浴等一連の介助方法を学びました。脳性麻痺の方の食事介助では僕も一緒に食事をするようにと言われましたが、介助するばかりで一口も食べることはできませんでした。男女60人皆さんの障害名、服薬名と介助法を暗記しましたが、初めてのことばかりでした。

 障害名は脳性麻痺、脳血管障害、頚椎損傷、筋ジストロフィー、慢性関節リウマチ・全身性エリマトーデス、ハンチントン病などです。脳性麻痺の方以外事故や進行性の内部疾患で人生中途の障害です。

 身体障害者療護施設が1972年にできるまで、在宅で寝たきりとなっているか、国立箱根病院や、神奈川県リハビリセンター七沢更生ホーム(現七沢自立支援ホーム)など少人数の受け入れ先しかありませんでした。当時、福祉制度を利用するためには県(政令市)の更生相談所に申請し、例えば「更生援護施設が適当である」との行政処分で入所できることが決められました。この「措置制度」は2002年度まで続き、現在は「障害者総合支援法」に基づく契約制度になりました。(高齢者福祉は、2000年にスタートした介護保険制度による契約制度が先行しました。)

 24時間交代制の介護職員は36名で同性介助が基本でした。帰宅できる人以外の外出は、散歩かプログラムに沿った買い物くらいでした。(職員ボランティアは禁止されていましたが、秘密で頚椎損傷の男性と居酒屋などに行きました。)

 翌年、藤沢市内の社会福祉法人に転職しましたが、きっかけは、盲学校の教員を退職した全盲の五十嵐光雄(1932~2009年)さんが「福祉問題自主研究会」を自宅の集会室でする誘いを受け出席したことでした。

 「二十一世紀を展望してミクロなシステムづくり 身障者福祉のネットワーク十万エリア構想」(小論八題)を具現化する講義は新鮮で、福祉の広がりを教えていただきました。

 その中で、「『隔離と管理』からの解放をめざして」、地域在住の障害者・老人はもとより、健常住民にも活用してもらえる「地域福祉推進の拠点」としての身体障害者療護施設建設計画の話をされたり、月2回(第1・3月曜日19:00~21:00)の講義は楽しいものでした。

 「『平和は福祉の基盤』『福祉は平和のシンボル』であることを身近なところから裏付けしこれを支える福祉運動を押し進めてゆく」ことを実践し、国・県・市で交渉する姿を「ガイドヘルパー」としての僕は間近に見てきました。

 

2 「療護施設自治会全国ネットワーク」設立(1994年)

 東京都立の療護施設日野療護園入居者自治会と職員の伊藤勲さん(現NPO法人やまぼうし理事長)が中心となり、全国231療護施設入居者宛てに「施設生活と環境についてのアンケート-利用者版-」を実施しました。83施設から138通の回答が寄せられ、「集団的管理優先で個人の自己決定権などは犠牲にされ」、「環境、設備面でプライバシーが守られない生活」を送っていることが明らかにされました。この調査結果を受け、入居者を中心として、職員、弁護士、研究者、障害者団体代表者などから「全国療護施設生活調査委員会」(事務局伊藤勲)と「療護施設自治会全国ネットワーク」(自治会ネット)(小峰和守会長:神奈川県丹沢レジデンシャルホーム入居者自治会長)が結成され、職員有志で「療護施設QOL研究・職員ネットワーク」(職員ネット)も設立され、本谷が事務局長になりました。

 1996年から2007年まで2年ごとに「施設と人権シンポジウム&全国交流集会」を愛媛、新宿・大阪・横浜・新宿・多摩にて開催し、大阪では300人以上の参加者があり、シンポジストとして厚生省担当者の参加もありました。また、職員ネット主催で全国療護施設職員に向けて、箱根、浜松、鹿児島指宿、藤沢で講師を選んで研修会(30~50人出席)を行いました。

 1998年2月6日「自治会ネット」が要望6項目をもって厚生省交渉が行われ回答を得ました。現在は小規模になりましたが、3か月毎に集まりをもつようにしています。

 

3 「全国身体障害者施設協議会」(全身協)による「生活向上のための施設サービス検討」委員として(1994~97年)

 全国7地区から代表者1人を選んでの「生活向上のための施設サービス検討」委員会立ち上げに、関東甲信越地区代表には本谷が選任されました。検討事項の一つに、「快適な施設生活のための課題調査(16領域134項目のチェックリスト(利用者版と職員版2種)」を全国療護施設全てに送付し、各都道府県単位でまとめたものを全国7地区それぞれでまとめ、そして、7人の代表者が3か月毎に当委員会にて検討し、1997年に報告書を「全身協」に提出しました。

 職員組織の取り組みと同様に、施設長レベルでも「療護施設の機能・制度のあり方検討報告書」が作成されました。

 厚生省では、1995年障害者対策推進本部で「障害者プラン(ノーマライゼーション7か年戦略)」を決定し、1996~2002年度に亘り障害者施策として緊急に整備すべき数値目標を表し、2003年の「措置から契約制度」移行の取り組みだったと思います。「全身協」は国の障害施策推進に上記の報告書を活用したものと思います。

 以上の活動をとおしてかと思いますが、1997~2007年の隔年に、社会福祉振興・試験センター主催「民間社会福祉施設職員合宿研修」(厚生省後援)の「事例研究」講師の依頼を受けました。これは、47都道府県・政令市の療護施設中堅職員代表が集まった研究会でした。事前に各施設の入居者対応の困難事例報告から5~6事例を僕が選び、各施設の対応を想像しながら課題解決の提案をし、意見交換をするものでした。我が施設の介護現場や「自治会ネット・職員ネット」、「施設サービス向上検討」などの活動を含め、現場職員の苦労とやりがいにどう応えていくかいい勉強になりました。

 

4 措置から契約制度の時代を迎えて

 2000年介護保険制度スタートにあたり、当法人も在宅の高齢者福祉サービス参入のため、「通所介護・訪問介護・訪問リハビリテーション・介護支援(ケアマネ)事業」立ち上げの担当となりました。訪問介護事業では、訪問介護員(ホームヘルパー)が必要となるため、2級ホームヘルパー養成講座実施の認定を受け、1999年~2007年まで年2回実施し、449名(藤沢・茅ヶ崎・寒川在住者対象)の修了生がホームヘルパーとして働けるようになりました。2003年からは、視覚障害者+全身性障害者ガイドヘルパー養成講座も付加しました。当訪問介護事業所のヘルパーが見つからない時は僕がヘルパーになって必要に応じた家事援助、身体介護、ガイドヘルパーをしました。

 介護保険制度が始まることで、ゆくゆく障害福祉サービスは介護保険制度と一体になることが新聞に載りました。介護保険制度は65歳以上(第1号被保険者)が利用できる制度ですが、40~64歳で加齢のため要介護状態となる15疾病(脳血管障害、慢性関節リウマチ、脊髄小脳変性症、糖尿病性合併症、パーキンソン等)が原因の障害者(第2号被保険者)は、介護保険サービスを優先しなければならない取決めとなりました。1999年度、僕たち関係者は神奈川県ケアセンター協議会をとおして障害者サービス利用で不利とならないように、データを基にした要望書を作成して県及び厚生省と交渉を重ねました。2000年3月24日「介護保険制度と障害施策との適用関係等について」の通知が出ました。これは、当要望書に沿ったものでした。

 

5 これからの計画

 退職後、「無料 ふくし困りごと相談所」の名刺を作り、2020年度からスタートする計画を藤沢市福祉部長、障がい福祉課長、藤沢市社会福祉協議会元事務局長等に挨拶回りをしました。ところが新型コロナ感染流行のためから活動が思うように進まない状態が続いています。

 昨年12月に、藤沢西部地区民生委員・児童委員協議会会長の推薦で当地区社会福祉協議会常任理事となりました。昨年7月20日の朝刊記事に「80代両親殺害容疑 藤沢 同居の55歳を逮捕」という記事がありました。今後、「生活の困りごとが」どのようにしたら事件化せずに済むか、考え、行動したいと思います。

 小田急線藤沢本町駅から西方向約1㎞にあった「特別養護老人ホーム」(定員50名)が移転したため、空いた建物の活用プロジェクトの一員になってほしいと、その理事長から相談を受けました。

 「寿生活館ノート」を書いた野本三吉(加藤彰彦)さんの生き方に教わることが多々あります。現在、横浜市旭区田谷地区で活動していますので教えを請いに伺いたいと思います。

講師プロフィール

本谷 守(もとたに まもる)
1951年、神奈川県川崎市生まれ。
1975年、早稲田大学第二文学部社会専修卒業(卒論「日本近代社会思想史―横山源之助著『日本の下層社会』、農商務省商工局編『職工事情附録二』等にみられる民衆の生活動態をとおしての一考察」)。
1975年、建設会社入社(県立高校・県立病院の現場事務等配属)。
1984年、横浜市社会事業協会身体障害者療護施設「よこはまリバーサイドとつかホーム」(介護職)入職。
1985年、社会福祉法人光友会身体障害者通所授産施設「神奈川ワークショップ」(指導員)入職
1986年、身体障害者療護施設「湘南希望の郷」(介護職)担当。(2001~2004年度施設長)
2005年度~地域福祉部担当(在宅支援・総合相談支援)
2019年8月将来構想準備室長(「日中サービス支援型グループホーム」設立担当)を最後に退職。
2020年4月~藤沢市社会福祉協議会臨時職員(湘南台地域活動ホーム「心身障がい児者一時預かり」業務)
資格取得:介護福祉士(1992年)、社会福祉士(2001年)

日時/会場

日時:2021年3月27日(土)14:00~17:00
会場茅ヶ崎市勤労市民会館(茅ヶ崎市新栄町13-32 TEL 0467-88-1331 FAX 0467-88-2922)
参加費:1,000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210 email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/