第105回懇話会のお知らせ(終了しました)

2021年7月24日(土)茅ヶ崎市勤労市民会館 14:00~17:00
「人新世」と科学史記述――ビッグ・ヒストリーから地学史の見直しまで
'Anthropocene' and the Historiography of Science: From Big History to the Revision of Geoscience History
講師:山田 俊弘さん(科学史)

講演概要

 ハラリ『サピエンス全史』が広く読まれているように、非常に長い時間を扱った「ビッグ・ヒストリー」と呼ばれる歴史ものが最近人々の関心の的になっている。そこでは宇宙史や地球史、人類史の展開のなかの最後の部分で「科学革命」を登場させて、今日の人間社会のあり方を考えさせる。そうした歴史観自体、近代科学や科学史研究の所産であるとともに、一過性ともいえない気象災害やパンデミックの様相を考慮すると、あらためて科学史記述のあり方をも問うているようにもみえる。本発表は、『サピエンス全史』の叙述とは逆の構造をもつともいえる「人新世」をめぐる問題を取り上げて、従来の科学史記述、とりわけ地学史の見直しを議論しようというものである。

 演者は、17世紀の地球論の生成について記述した『ジオコスモスの変容』(2017年)で、ステノやライプニッツらによる地球論的な議論が、聖書の歴史と自然の歴史、人間の歴史を未分化なまま扱っていると分析した。「人新世」という名称は、新生代の下位区分という19世紀の地質学者ライエルの地質時代命名法を踏襲して出現しており、地質学の示唆する地球史の時間観念を根底にした歴史認識であることは疑いない。と同時に、人間の環境に及ぼす影響が地質学的な力として発現して歴史記述に闖入してくる事態を表徴しようとする。これはステノの時代の自然史と人間史(そして聖史)が地球史の中に溶け込んでいる状態の再現ともいえる。そこではまた、層序学による地球史編年と資源探査の結合という近代地質学の、フーコー的な用語を使えば、「地権力 geo-power」的な要素の出現も観察される。

 こうした認識のもと、次表のような見通しを立て、地学史記述の見直しを通した今日の科学史のヒストリオグラフィーの課題を考えたい。

表.近代地学史への3つの着眼点
epoch topics geopower history science
15~17世紀 コスモグラフィーと大航海 地理権力 普遍史 地球論
17~19世紀 地球史と地下資源開発 地質権力 自然史 地質学
19~21世紀 宇宙進化論と地球環境問題 気象権力? 宇宙史 地球惑星システム科学

講師プロフィール

山田 俊弘(やまだ としひろ)
 科学史・科学教育。1955年千葉県生まれ。1980年に京都大学理学部卒業後、高等学校教員(千葉県)。2004年に東京大学大学院総合文化研究科にて博士号(学術)取得。茨城大学・法政大学等の非常勤講師、東京大学大学院教育学研究員をへて現在、大正大学非常勤講師。日本科学史学会欧文誌編集委員。

著訳書
●『はじめての地学・天文学史』(共著、ベレ出版、2004年)
●『ジオコスモスの変容―デカルトからライプニッツまでの地球論』(単著、勁草書房、2017年)
●ステノ著『プロドロムス:固体論』(単訳、東海大学出版会、2004年)
●リヴィングトン箸『科学の地理学』(共訳、法政大学出版局、2014年
●ブリンチベ箸『科学革命』(共訳、丸善出版株式会社、2014年)
●ステノ=ライプニッツ関係についての英語論文で日本科学史学会論文賞を受賞(2007年)。
その他、論文・論説は多数あり。

日時/会場

日時:2021年7月24日(土)14:00~17:00
会場茅ヶ崎市勤労市民会館(茅ヶ崎市新栄町13-32 TEL 0467-88-1331 FAX 0467-88-2922)
参加費:1,000円
連絡先:猪野修治(湘南科学史懇話会代表)
〒242-0023 大和市渋谷3-4-1 TEL/FAX: 046-269-8210
email: shujiino@js6.so-net.ne.jp
湘南科学史懇話会 http://shonan-kk.net/

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